Jul 11, 2009

「巨象も踊る」

著者はルイス・ガースナー、元IBMのCEOです。
この人はIBMを建て直したということで、非常に有名な人です。経歴も面白いです。
ハーバードでMBA → マッキンゼー → アメリカン・エクスプレス → RJRナビスコのCEO そしてIBMのCEOです。ビスケットからパソコンまで、まったく異なる業界を渡り歩いてきた、経営のプロという感じがします。

この本は、ガースナー氏がIBMのCEOに就任してから、どのようにしてIMBを復活させたのか。重要なことは何なのか、企業のありかたとは、経営者のありかたとは・・・ということを本人の手でかかれています。
ありがちな、きれいごとや後付け的な話が多いのかと思いきや、それなりに楽しめました。
経営を論理的に考えているところ、できるだけシンプルに物事を考えようとしているところに加え、心構えを説いているような部分もあります。結構参考にできる考え方もありました。


以下、いくつか抜粋してみます。
「 経営難に陥った企業の再建をいくつも経験してきたが、最初に学んだ点のひとつはこうだ。難しいこと、痛みの伴うことをやらねばならないのであれば、それがどんなことであれ、迅速に実行すべきであり、具体的に何をするのか、そしてそれはなぜなのかを全員に周知徹底すべきだ。ひとつの問題を長々と考えたり、問題を隠したり、部分的な解決策を小出しにしたりしながら景気が良くなって問題が自然に解消されるのを待っていると、つまり、ぐずぐずと先送りを続けていると、問題はかならず深刻化する。私は問題を素早く解決して新たな目標に向けて前進するのがいいと考えている。」
当たり前に感じるかも知れませんが、これがなかなかできません。変わることができずに、そして変わることを好まず、本当にダメになるその時までずるずると問題を長引かせる。これはよくあることです。しかし、本当はこの状況になったら最期です。もはや立ち直ることはできません。痛みに耐え、安定を壊し、変化を起こさなければなりません。本当に後がなくなる前に。動けるうちに動かないと必ず後悔します。 それが一番前向きな考え方だと僕は信じます。

「 変革を成功させるには、危機に面している事実を公に認めることが不可欠である。社員は危機の只中にある事実を認識していなければ、変革に必要な犠牲を払おうとはしない。変革を好む者はいない。経営幹部であれ新入社員であれ、変革は不安定を意味し、痛みを伴う可能性があるからだ。
だからこそ危機が必然になるのであり、危機の大きさや深刻さ、影響を伝えるのはCEOの仕事だ。そして、いかにして危機を乗り切るか、新たな戦略、新たな企業モデル、新たな企業文化について伝えられることも、同じくらい重要だ。そのためにはCEOが、対話を進め、情報を提供し、情報の提供を求めていかなければならない。CEOがたえず社員の前にでて、わかりやすく簡潔でしかも納得できる言葉で話し、組織全体が考え、行動を起こすようにする努力を何年も続けなければ、企業は決して変わらないと思う。」
偉そうですが、まったく同感です。情報は必ず、全員で共有することが非常に重要だと思っています。しかし、このことが徹底されている会社はほとんどないのではないでしょうか。上司しか持っていない情報、全員に回ってこない情報、その情報を使ってさも得意そうに説教する上司・・・、建設的じゃないですね。そもそも、同じ情報を共有することが同じ前提に立つことにつながります。それによって初めて組織全体が考え、行動を起こすことが可能になるのではないでしょうか。その上で議論を繰り返すことが非常に重要だと思っています。

「長期的な株主が富を蓄積できなければ、自分たちも富を蓄積できないことを経営幹部は知るべきだ。」「経営幹部にストックオプションを付与する理由は、株式を保有し続け、長期保有の株主と利害を一致させること以外にない。」
経営者と株主の利害を一致させる。経営者と株主を同じ方向を向かせる。同じ方向を向いているからこそ、議論がかみ合うわけです。前提が違う人同士では話をする意味すらありません。会社は誰ものかという議論がありますが、立場はことなるが同じ前提のもとに立ち、同じ方向を向くことができれば、そんな議論は意味も必要もなくなるのではないでしょうか。

「焦点を絞り込んで成功を収める企業とは、自社の顧客のニーズ、競争環境、経済的な現実を深く理解するようになった企業である。これらの点を徹底して分析した結果を基礎に、具体的な戦略を策定し、戦略を日々の実行に結び付けていく。」「 結局のところ、どの競争相手も基本的に同じ武器で戦っていることが多い。ほとんどの業界で、業績向上の原動力になる要因、成功をもたらす要因を5つから6つ指摘できる。・・・したがって実行こそが、成功に導く戦略のなかで決定的な部分なのだ。やり遂げること、正しくやり遂げること、競争相手よりうまくやり遂げること、将来の新しいビジョンを夢想するより、はるかに重要である。」
難しいことはない、シンプルであるということです。重要なのはだれもが知っている基本的なことであり、結局はそれが全てです。それが本質だということです。それ以外の全てはこの本質に基づいて組み立てられている、従ってこの本質部分を徹底できた企業が結局は強い。そのように僕は読みました。

中には「そうか?」と思うところもありますが、大部分は「なるほど、確かに。これ使えるやん」という内容になっています。おすすめします。
ただし、日本語翻訳はいまいちです。

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